1 私は、ある春の日に、奈良駅から春日大社に向かって歩いていた。鹿たちが私の後をついてきた。
カバンの中に団子が入っており、その匂いを嗅ぎつけられたのだと思う。

2 後ろからついてきた鹿が私をつついてくる。「食べ物をよこせ。」ということだろう。私は鹿がい
ないほうに向かって歩いたが、鹿はなおついてきた。

3 何度もふりきろうとしたが、敵も「しかもの」。いや「さるもの」だ。その光景を見て、外国人観光客
がさかんにシャッターを切っている。私は手を使ってふり切ろうとも考えたが、あとでこの写真を見るど
こかの国の人に「良く思われたい。」というせこい考えに負けて、にこやかに応対してしまった。

4 やっと鹿の集団を逃れて、ベンチでお団子を食べようとしたところ、少し目を離したすきに、カラスの
襲撃を許してしまった。お団子は下に落ち、砂まみれになっていた。私はお腹を空かせた鹿のように「ト
ボトボ」と最寄り駅まで歩くしかなかった。

トボトボ しかじか(春日大社への道)