「生きる」っていうこと

1 私は、知人からあるスポーツを観戦しないかと誘われた。骨折したばかりで

自宅に引きこもりがちだった私に気をつかってくれたのだ。私はありがたくその

申し出を受けた。

2 私が会場に着いたときはすでに満席近く、会場の上の段の席しか空いていな

かった。階段がしんどい。少し上がっただけで、膝が「がくがく」する。転倒し

そうで本当に怖い。加齢に伴う体力の衰えに加え、しばらく自宅に引きこもって

いたことによる筋力の衰えで、これまではなんなくできたことができなくなって

いた。恐る恐る階段を上がり、何とか自分の座席を確保した。

3 久しぶりのスポーツ観戦は思いのほか楽しかった。それまで引きこもりがち

だったので、良い気分転換になり、本当に来てよかったと思い、知人に感謝の思

いでいっぱいだった。

4 さあ帰ろうと席を立ち、階段をおりようとしたときだ。膝がふるえて、ふら

ついてしまった。下の通路までは長い、急な階段が待っていた。私の座席から左

に100メートルぐらい先に「手すり」があることを確認した。

5 私は「手すり」にしがみついた。手すりをつかむとすぐに手が真っ白になっ

た。おそらくこれまで誰もつかまなかっただろう会場の一番端の手すりにしがみ

つく。何人もの視線がささる。なりふり構っていられなかった。

5 階段を下りた後、私は両手を見た。「真っ白だった。」

生き続けたかった。なりふり構っていられなかった。

 

 

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